和紙にさまざまな機能をもたらす加工技術を持つ清水紙工と、国内有数の総合スポーツ用品メーカーミズノ。越前和紙とスポーツ用品、それぞれの分野の職人がタッグを組み、これまでにない「和紙グラブ」を生み出しました。野球グラブに使用される天然皮革に替わる素材として注目されたのは、「越前和紙」。自然素材である和紙と日本古来から続く伝統の技術を駆使し、和紙の可能性を大きく広げたプロダクトが誕生しました。
1500年以上の歴史がある越前和紙の産地で、和紙の加工を専門に行う清水紙工。
現在も約300人いる紙漉き職人の技術を知り尽くすことから、和紙グラブの製作では和紙コンシェルジュとして各パーツに最適な和紙を漉く職人を選定しました。
さらに和紙自体のしなやかさに加え、高い強度を実現するために、清水紙工が長年培ってきた手揉みやこんにゃく引きなどの和紙の加工技術を活用。和紙でありながら皮革のような高い耐久性とクッション性を実現しました。
越前和紙は1000年以上の耐久性をもつといわれ、世界的にも評価されています。今回のプロジェクトで製作したものはあくまでもコンセプトグラブのため、従来の野球グラブと同等の使用を求めるには難しい面もあります。しかし、柔らかな質感と強靭さを兼ね備えた和紙グラフはこれまでの紙の概念を超えたものに。その出来栄えに、グラブ職人からも驚きの声があがりました。
伝統的な技術を守りながらチャレンジした新しい取り組みによって、「紙」という固定概念を取っ払った新たな素材の可能性を見出すことができました。
「書く」「包む」など、平面で使用されることの多い紙。今回のプロジェクトでは、通常の野球グラブと同じ製造工程で試作に取り組みました。完成したグラブは紙とは思えない立体的な造形美で、紐や縫い目に至るまで複雑な形状をリアルに再現しています。
野球グラブは耐久性と実用性が求められる道具。さまざまな加工や厚みの調整で、これまでの紙の概念では考えられなかった強度と使い心地を実現しました。ミズノのグラブ職人も「従来のグラブに引けを取らない」と納得の仕上がりとなりました。
伝統的な襖や壁紙からアートに使う紙まで、多岐にわたる紙を製造。グラブの質感に合う紙を求め、ちりが混じるなどで商品にならなかった和紙を原料に戻して再利用する取り組みも行いました。
明治初年度から越前和紙を製造する山伝製紙株式会社。さまざまな機能紙を漉く技術をもとに、グラブ製作では各和紙のパーツを結び付ける和紙ひもを手がけました。
ブランドマークは、手漉き局紙の技法を継承した独特の厚みと硬さを持つ「凸和紙」を採用。独自の凸加工技術で、表面は0.1ミリ単位の繊細な表現を浮き上がらせながら、裏面はフラットに仕上げることを可能にしています。
こんにゃく芋を成分とした「こんにゃくのり」を紙に塗ることで、摩擦にも強い耐久性のある和紙に。紙本来の表情を損なうことなく風合いのある和紙パーツとなりました。
使い心地を左右する柔らかさを出すため、越前和紙の伝統技術である手揉み加工を施しました。程よい硬さと柔軟性を持ち、手に馴染む「使いやすさ」を実現しています。
越前和紙の産地のなかでも、掛軸・巻物・額・屏風・衝立・襖・障子などの仕立てや修復など繊細な技術に定評のある丸山表具店。和紙を貼り合わせて補強するための裏打ちを手がけました。
伝統工芸の衰退や地球環境の変化などさまざまな要因によって、今、ものづくりのあり方が問われています。デジタルの普及が進むとともに紙に求められる役割も大きく変化するなか、紙を扱う私たちにはどんな価値が提供できるのかを常に考え続けています。
「Paper for good」プロジェクトでは、従来の「機能性」だけでなく、伝統や技術、環境、テクノロジーなどあらゆる視点から紙の可能性を追求。“social good”な価値を持つ紙を世の中に発信していきます。
越前和紙の産地、福井県越前市今立エリア。なかでも大滝町、岩本町、不老町、定友町、新在家町からなる五箇地区には、まちを流れる岡本川を中心に、今も多くの和紙業者が軒を連ねています。約1500年の歴史がある越前和紙は、室町時代は公家や武士の奉書紙として使用され、江戸時代には日本一の紙の証である「御上天下一」の印が押されていたなど、品質の高さには昔から定評がありました。
現在も約300人の紙漉き職人がいる一大産地で、長い伝統を脈々と受け継ぎながらも、独自の技術を追求し続けています。産地全体で常に新しい取り組みに挑戦することに余念がなく、時代のニーズに合った和紙を世に送り出しています。
近年、地球を取り巻く環境は、温暖化に伴う気候変動や資源の濫用、マイクロプラスチックによる海洋汚染など、深刻な状況になりつつあります。そんな中、紙をはじめとした再生可能な資源の活用は、持続可能な社会の実現に欠かせない重要なミッションの一つです。
日本で1500年以上にわたり、人々の暮らしのなかで親しまれてきた和紙は、まさに今の時代にこそ求められる素材。私たち清水紙工はこれまで培ってきた和紙の加工技術を通して新しい機能や用途に挑戦し、“social good”なものづくりを通して紙の可能性を広げていきます。